心あたたまる物語Vol.3の中の「ミックスフライ」の聞き取り書き

ksneb · 发表于 2013-6-7 15:32:14

この小話が本当に好きで、つい　聞き取り書きしちゃった。皆さんにもぜひ聞いてほしい。
また誤りの場合　訂正願います

ミックスフライ
ーー朗読：吉野裕行

　　知っていましたか、料理とは神様が人間だけにくれた魔法だってことを。口に入れただけで感動を呼び起こし、体中に歓喜が駆け巡る。これぞまさに奇跡。だが、どんなにおいしい食事も、このスパイスがなければまったく味気ないものに。そう、それは大好きな人たちの笑顔。一つの皿から料理をみんなで分け合う時、そこでは会話がはずみ、幸せな笑顔でいっぱいになる。家族が集まる夕食、それは最高の幸せの瞬間。さて、今から紹介するこの家族のディナーはいかに
　　吾輩はテーブルである。名前はまだない。ただし店では便宜的に吾輩を三番テーブルと呼んでいるようではある。窓際の日当りのいい場所に陣取った吾輩の上には、よく予約席というプレートが置かれる。そう、吾輩はなかなかの人気モノなのだ。まあ、吾輩ほどのテーブルならさもありなんだ。この洋食屋グリル一つ星の主人　田中がイタリア旅行の際に一目ぼれし、有り金はたえて購入したほどである。この店がオープンするお祝いのときには　吾輩の上にメインディッシュが乗っていた。つまり、主役を支える大事な役目を果たしたというわけである。なので、諸君も吾輩をそこらのテーブルとは一緒にはしないでもらいたい。そう、判ればいいのだ、遠慮なく吾輩になんでも聞きたまえ。何しろ吾輩はこと店の生き字引でもある、知らないことなど何一つない。うん、人気メニューとな。フン、松阪牛のグリルステーキと言いたいところではあるが、この店ではたまにしか注文がない。庶民的にはミックスフライ定食なるものが人気のようではある。中身はエビフライに豚カツ、フィッシュ、そして最後に店自慢くロケットとなかなかのボリュウムにスープがついて1580円である。おっと、失礼をした、吾輩イタリ生まれなので、ついコロッケをくロケットと、許してくれたまえ、お詫びにミックスフライで面白い話をお聞かせしよう。
　　それはある四人家族の話だ。彼らは吾輩のことが大のお気に入りで、一か月は一回予約して食事に来るんだ。そして、頼むものはと言えば。ううん、ミックスフライ定食だろうと、まったく話を最後まで聞きたまえ。彼らが頼むのはそれそれのフライの定食である、ここからが話のミソだ。彼らはそのあと素晴らしいアイディアを実行するのだ。それそれのフライを一つずつ家族に交換することである、これぞ家族の幸せ、食事の醍醐味ではないか、まさにファンタスティコウ。失礼、吾輩興奮するとついイタリア語が出てしまうのだ。おや、噂をすれば影だ。どうやら彼らがやってきたようだ。しかし、どうにもおかしい、今日の吾輩の予約は三人である。
　　父さんは、せっかくだから母さんが好きだったエビフライ定食にするよ。じゃ、あたしが豚カツ定食にする。だって、父さんここのカツ大好きでしょう。ええ、じゃ残りはどうしよう。俺いつもはコロッケなんだけど、でも白身魚が食べられないのも嫌だし、超迷うな。俊哉も知恵も父さんに合わなくても、好きなの頼んでいいんだぞ。ううん、今日は母さんの35日だもの、そうしたいのいいでしょう。あ、待って、ほら、ここに白身魚アンドコロッケ定食ってある、これで我が家のミックスフライ定食の完成だよ。
　　吾輩今夜ほど悲しい食事の友をしたことはない。無理に明るく振る舞う彼らの声に、胸が痛んだ。吾輩を素敵だと称賛してくれた優しいおく方はもはやおられぬとは。普段は飲まない父君が、珍しくワインを頼んでおられた。あ～今宵は吾輩も酔いたい気分である。また来月の月命日にも来ようと約束を交わしていた彼らではあるが、なぜかその日を境に、一年近くも姿を見せなかったのである。吾輩はやきもきしたが、テーブルの身では如何にもできなかった。すいません予約してないんですが、あそこの席いいですか。ええ、どうぞ使ってください。姉さん良かったなあ空いてて、今日は何頼もうか。二人だもん何でもいいよ。待ちわびた彼ら親子が吾輩の所へ再びやってきた。然し、現れたのは兄弟二人であった。いったい何が起こったのか、吾輩は紳士らしくないと知りながら必死で聞き耳を立てたのである。交通事故であった、父君はあのわずか2か月後に不幸にみまわれ、この世を去ったのであった。あ～なんという悲劇であろう。この世には神も仏もあったものではない。二人はエビフライとコロッケ定食を頼んだが、ほとんど手つかずで会話もなかった。さもありな、あの幸せだった家族のミックスフライではないのだ。時が悲しみを癒すというのは本当である。彼ら二人は訪れるたびに少しずつ明るさを取り戻し、二人に笑顔が戻るようになった。吾輩もようやく安心しかけていた矢先に、それは起こってしまった。
　　いらっしゃいませ、おや、今日はお一人ですか。はい、席はどこでもいいんで、ミックスフライ定食ください。吾輩から離れた席に座った青年とは、主人の会話から漏れ聞こえたところによると、姉上はどうやら入院されたようである。大きな手術が必要で成功する可能(xing)は低いと言われたというではないか。吾輩はなんと無力であるのだろうか、今夜ほどそれを思った日はない。あ～人生とは何故にかくも無常であるのか、願わくば彼の青年に‘‘‘うん、田中、なぜ吾輩の上に料理を並べる、今日は客がないはずだぞ。上坂様こちらへどうぞ。え、今日は俺一人ですよ。それにそんなに料理並べられても。召し上がっていただけませんか。いつものように、エビフライ、豚カツ、白身魚、コロッケの定食です。ご家族の分も用意させていただきました。ご主人、ミックスフライです、ごゆっくりどうぞ。さすがは吾輩の主人である。田中は時々こうした粋な計らいをするのだ。青年よ、思い切り泣くがいい、吾輩に遠慮はいらん。今宵のテーブルに落ちた涙は吾輩の誇り高きシミとなろう。
　　あれから幾度もの季節が過ぎた、田中も吾輩も少々老けたが、まだまだ元気に働いている。そして出された料理の数だけ、吾輩の思い出も増えていくのだ。おっと、おしゃべりもこの辺にせねば、今日は大事なお客様の予約があるのだ。仲のいい姉と弟、そしてその伴侶たちという四人組だ。料理はもちろんとっておきのあれである。
　　家族で囲むひとつの食卓、それはみんなが顔を合わせる大切な時間。白いテーブルクロスの上に並んだ母の手料理は、一番のご馳走です。ふりかえると、幸せな思い出はいつもそこにあるもの。さあ、帰って食事にしませんか。今夜もきっと、温かい食卓が貴方を待っているはず。

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